定額給付金の使い方がその人の品格を決める (2009年03月号)

 

 再開したホームページに寄せられるメールは、エールが多いが、中には厳しい批判もある。1月23日に届いたのを、一字一句そのまま引用する。

 「あなたがTVで発言することの多くは民主党を誹謗中傷し、自民党のことは甘やかし、擁護することですね。自民党応援団のおつもりでしょうが、あなたの答弁にはいささか自民党をかばうがあまり無理が生じていることが多々あります。あなたがいくらTVでわれわれ庶民を洗脳しようとしても、庶民は自民党はもう賞味期限の切れた商品だということがわかっています。もう、あきらめなさい。自民党の誰とお付き合いがあるのか知りませんが、これ以上庶民が政府や官僚、自民党から騙されることはありません。残念ながら、自民党は野党になりますね」

 指摘されるまでもなく、ここ2、3年メディアでの発言には苦慮している。与党の負の部分が拡大され、繰返し報道されると、攻める側は大義名分を得て、勢いづく。現実はそんな単純ではないと、いくら口をすっぱくして説いても、多勢に無勢、メディアが巻き起こす風には吹き飛ばされる。

 それでも、なぜ自民党員でもないのに、スタンスを変えないのか。自由と民主主義―問題は多々あるが、現時点ではそれが望み得る唯一の選択であるからだ。

 1959年3月に来日して以来、半世紀の間、日本の社会を見てきた。60年、70年2回の安保騒動。1年の半分は授業が成り立たなかった学園紛争。当時のメディアの無節操な扇動と報道。洗脳されるままに火炎瓶を投げた若者たち。その後なにくわぬ顔で大企業に就職したり、公務員になったり、政治家、ジャーナリストになった人たちが多かったが、純粋な者ほどその後の人生が狂ってしまった。

 民主主義とは所詮「頭数」。ポピュリズムに陥るか否かは、主権在民の民度に依る。世界の国々に較べて、日本人の教育レベルはかなり高いと言えるが、残念ながら、戦後この方、修羅場をくぐることがなかった。それはそれで幸せなのだが、結果的に人間が小粒になり、ヤワになった。ハードルを一つずつ飛び越えることによって足腰は鍛えられ、難題を一つずつ解決することによって、知力、気力が鍛えられる。温室育ちの者は寒風吹きすさぶ外界では生存できない。国際社会に飛び立つには強靭な翼が必要だが、その翼をもつ者はどれだけいるのか。

 暖衣飽食の中、真綿に包まれて育った多くの日本人は、戦うことを知らず、メディアがたれ流しにする情報を鵜呑みにする。テレビはバラエティ、ワイドショー、クイズ番組が横行し、「一億総白痴化」と予言した大宅壮一の言葉が現実になった。

 アメリカではオバマ大統領が誕生し、報道はこぞって礼賛するが、冷静に見てみると「チェンジ」・「イエス・ウイ・キャン」は選挙に勝利した時点で終止符が打たれた。黒人が大統領になることが大きなチェンジであり、その夢を叶えたのがイエス・ウイ・キャンなのだ。大統領の座に就けば、国民に語りかける言葉は違ってくる。それは「責任」という国民一人ひとりに献身を呼びかけるスピーチなのだ。候補者と大統領の違いをこれだけ明らかにしたのは実に見事だが、この点を分析した報道を殆んど知らない。目前にあるのは経済危機、イラク、アフガニスタン問題であり、祭りは終わったのである。

 日本では祭りどころか、逆風だけが吹き荒れている。与党の対応にも問題はあるが、メディアは与党のミスは大きく、野党にはエールの報道姿勢を貫いている。その中で冒頭に示したように「もう、あきらめなさい」と宣告する者が出てくる。しかし、共産主義国家の没落をこの目で見てきた者は、簡単にあきらめる訳にはいかない。欠点があろうが、自由民主が唯一の選択なのだ。

 定額給付金で苦しい弁解や反対論をぶつけるのは、もう止めるべきだ。昨年末からテレビ番組で次のように発言している。「11歳の孫娘に『ボス、給付金を貰いますか』と聞かれた。一家には無条件で怖い存在が必要なので、孫たちにはボスと呼ばせているが、答えはイエス。貰う額と同等かそれ以上の額を足して寄付する。経済的な理由で出産を躊躇している女性を援助する『円ブリオ基金』に寄付する。皆さん参考にしてください」

 話は簡単なのだ。各個人が思うままに使えばよい。金は無いより、あった方がよい。理屈を言うなら、使い方がその人の品格を決める。

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