中国人の『死不認錯』と『移花接木』 (2002年07月号) |
瀋陽の日本総領事館での亡命者連行事件は、現時点では争点が日本側の同意の有無ということに絞られていて、両者の主張は平行線をたどっている。真相は窺 い知るべくもないが、一つ言えることは、ひごろ中国人における強弁の悪癖を批判する上で人後に落ちない私ではあるが、「領事館の同意を得て立入り、事後感 謝された」という中国側の主張をきいたとき、一瞬さほど荒唐無稽には感じなかったということである。チャイナ・スクールに牛耳られてきた中国駐在の領事館 ならあり得るかもしれないと、その瞬間ほんとうにそう思ったのだ。
落ち着いて考えてみると、ビデオで見るかぎりあれは突発的な駈け込みと追っ掛けで、事前の同意云々というような状況ではなかったし、もし本当に同 意を取っていたのなら、最初からそう言えば話はこじれずにすんだのだ。ところが中国側は当初そんな正当な議論はまったくせず、領事館の安全確保のための行 動だからウィーン条約に違反しないとひたすら強弁したのであった。このあたりから見て、「同意説」はたぶんでっち上げだと思われる。しかし、「感謝説」に ついては何とも言いかねる。
ともあれ、この事件は中国人を理解する上でまた一つ恰好な実例を提供してくれた。それは、「死んでも非を認めない(死不認錯)」という彼らの国民 性の一側面である。自己正当化のために、中国においては詭弁や計略の芸術は非常に発達しているのである(詭計多端)。これに関して、私の夫が50年前のあ る体験を話してくれたことがある。そのとき彼は台湾大学の一年生、田舎のぽっと出だった。
学寮の食堂で、混雑にまぎれて、一人の中国人学生が料理一皿をかすめ取った。
「ちょっと待った。君は賄い費を払っていない」
学寮自治会の賄い委員がこれを見とがめた。同様の事件が頻発していたので警戒していたのだ。
「勝手に料理を持っていって、皆が迷惑しているんだ。台湾大学の学生ともあろうものが・・。むかし日本時代ならこんなこと絶対に起こらんぞ」
と台湾人の委員が言い始めたとき、それまで黙ったままだった中国人が突然逆襲に転じた。
「何だと!台湾は昔も今も中国のものだ。『日本時代』とはどういう意味だ。お前は漢奸だ!中華民族の面汚しだ!」
ここぞとばかりまくし立てる中国人の前に、台湾人の方は唖然として言葉もでない。タダ食いの件はもうどこかへ飛んでいってしまい、この偉大なる中華民族の愛国者は昂然と方を聳やかせて、食堂から出ていったのだという。
こうした議論のすり替え(移花接木)は中国人のもっとも得意とするところだ。一昨年9月、中国の軍艦などが絶えず日本の排他的経済水域に出没する 状況について、日本の訪中議員が不快感を表明したところ、中国の朱首相は、感情を害する点では「靖国に閣僚が参拝することも同様だ」と答えたものである。
1996年の台湾に対する中国のミサイル攻撃について、日本在住の中国人で国際関係専攻の朱建栄教授は、あれは台湾の方で先に軍事演習をしたのが 原因だと"独創的"な理論を触れ回って、大方の失笑を買ったものである。これもすり替え議論の一種であろう。主権国家である台湾は、他の国と同様、軍事演 習くらいはするが、人様の家の玄関口、たとえば上海や天津の沖合いにミサイルをぶち込んだりしたことはないのである。
この間、「中国人留学生に犯罪が多いのはなぜ」というテレビでの質問に、在日中国人の評論家莫邦富氏が、「それは日本の入管が悪い。厳しい審査も せず、勉強する気のない不良学生を入国させたからだ」と答えていた。何でも他人のせいにする癖が出たのだろうが、これは答えになっていない。テレビは、他 国に比べてなぜ中国人の犯罪が多いのかと問うているのだ。中国にだけ甘い入管などない。
この5月初旬、詭弁の最高傑作といえるものに出くわした。日本テレビの特集番組で放映されたものだが、スーパーのレジを通らずに店外に品物(約5 万円)を持ち出した中国人の万引が、ガードマンにつかまった。店の奥で取り調べを受けたとき、この男いけしゃあしゃあと答えて曰く、「中国では先に品物を 持って帰ってから金を払うルールだ」。
こういうのは、中国の四文字熟語で「信口開河」(口から出まかせ)という。