日本人に見る『覚悟の欠如』 (2001年12月号)

 

 高層ビルにジャンボ機が体当たりする禍々しい映像が鮮明な記憶を残している中、追討ちをかけるように炭疽菌という目に見えないバイオテロの恐怖が、アメリカ全土を襲い、世界中に広がっている。

 一方日本の新聞では「自衛の武力行使 正当性どこまで」(10月23日 朝日)と相も変わらず悠長な議論を繰返している。22日、同じ朝日新聞に は「欠席目立った日本の出版社」とテロ事件後開催されたフランクフルトのブックフェアに日本の出版社が直前になって大量に欠席したことが報道された。この 2つの記事は、常日頃案じていた日本人の当事者意識と覚悟の欠如を如実に表わしたものである。特にブックフェアへの不参加が出席予定のほぼ3分の1の13 社に及び、それも多くは大手出版社であり、ある参加者が電子メールで「日本関係が集まっているところは、不思議な風景になっていました。会社の名前の看板 だけがあって、ブースがもぬけの殻。いすだけが置いてある。このキャンセルは話題になり、何度か冗談や皮肉を言われました」と伝えている。「派遣する社員 の安全面を優先させた苦渋の選択」という当事者の声が反映するように、結局、最終判断は「安全第一」となるのが現在の日本人の最大公約数であろう。

 安全が大切なのは云うまでもない。テロは安全に対する最大の敵である。だからこそ、テロ撲滅の戦いには、誰しもが幾ばくかの貢献をしなければなら ないのである。非力な者が、この際出来ることは、ブッシュ大統領が云うように、普段の生活をするしかあるまい。平常どおり働き、海外旅行もキャンセルしな いことである。わが家では、テロ発生後夫がアメリカ旅行をし、些やかな連帯を示した。

 10月8日から10日まで、台湾大学電機系年卒の同窓会が、ラスベガスで開催されることに決まったのは半年前であった。在米のクラスメートを中心 に、台湾、日本からも参加者を得て45年ぶりに再会を果たすのである。そこに9月11日の中枢同時テロ。娘や息子は父親の一人旅を案じ、再考を促した。 もっぱら大学教師という「象牙の塔」の生活をしている彼は、滅多に遠出をしない。しかもこの度は初めての海外一人旅、アメリカもはじめて訪れる。何もこの 時期にわざわざという子供達の思いは当然であろう。しかし、夫は予定通り出発した。幹事役の献身的な努力に報い、テロと戦うアメリカに些やかな支援を送る 為にも、この旅はキャンセルするべきではないというのが、私達夫婦の結論であった。同窓会などという不要不急の集まりであっても、9月11日以前と以後で 姿勢を変えるのは潔くないと考えた者が圧倒的に多く、欠席者は病の為不可抗力であった1名と、日和った1名だけだった。26人中たった1人の落伍者という 好成績は幹事の感動的な呼びかけに負うところが大きい。

 「戦争や天災のケースを除き、ここに計画通り再会の集いを開催する決心を皆さまにお伝えいたします。世界貿易センターのツインタワービルとペンタ ゴンへのテロ攻撃跡を見て、我々の再会についての懸念がありました。私は陳、黄両君と電話で協議し、予定通り同窓会を催すことで合意に達しました。飛行機 の旅も、セキュリティが最高レベルにまで強化され、テロ防止のあらゆる手段がとられることによって、以前にもまして安全となることを信じています。(中 略)テロ攻撃によって、未だ行方不明になっている数千の人々、身内を失った家族、レスキュー隊の為に祈りましょう。そして、この国をより安全にしようと尽 力しているリーダー達にも祈りを捧げましょう。恐ろしい試練に相対している私達の愛する国に、神のご加護がありますよう祈りましょう。国のリーダー達の背 後には我々の団結があるのだということを示すためにも、国旗を掲げ、教会で祈り、夜七時には自宅のキャンドルをともしましょう。この悲劇を通じて、アメリ カ人はより一層強くなるのです。」

 アメリカが強いのは、国民の多くが心から国を愛しているからである。大学卒業後に留学で渡米した台湾人も、アメリカ国籍を取得したからには、アメ リカ人として行動する。日本ではどれだけの国民がこのように国を愛し、それを公言して憚らないのか。自分の国を愛さない者が、他の国を愛せる訳がない。無 責任な言論を弄し、行動から逃れる者に、一国の運命を任せられるだろうか。真っ当な国づくりを志すには、覚悟が必要である。

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