因果は巡り、国民党の終わりの始まりが・・・ (2004年08月号)

 
 6月 号の本論壇には「台湾総統選異聞」、7月号には「同余聞」と題して、2月連続で台湾の総統選をめぐる珍妙な騒動について書いた。ゴタゴタは今でもだらだら と続いている。しかし、当初連・宋の落選コンビが懸命に喧伝した「陳総統銃撃自作自演説」や「選挙不正説」は、入念な法医学的検査や綿密な票の洗い直しを 経ても何ら不審点や違法性は発見されず、結局のところこれもまた、中国人十八番の根も葉もない言いがかりだったかと、一般の関心は急速に落ち込んでしまっ た。

 現時点で連・宋コンビは今なお執拗に陳当選の無効性と選挙のやり直しを唱えているが、これに同調する声は次第に小さくなっている。しかし今や彼らにとっ て、落選の責任を都合よく転嫁し、政治的失脚を免れるためには、最後まで「選挙不正説」にしがみつくしかない。したがってこの選挙のゴタゴタが1日でも長 く続くことに彼らの利益がある。騒動を続けるために騒動を起こすわけで、騒動が自己目的化しているのだ。
 しかし、事はそんなに彼らに好都合にばかり働かない。政権復帰の当てが大きく外れて、再び野党の冷飯を喰う破目になった国民党・親民党の政客の面々は、 すでに前哨戦が始まっている国会議員(立法委員)選挙を半年後に控えて、連・宋の悪あがきの茶番劇にそういつまでも付き合っているわけにはいかない。大方 の民心は連・宋の往生際の悪さに白けきっているのだ。ほどほどのところでこの2人に見切りをつけないと、年末の選挙で彼ら自身の足元が危うくなりかねな い。

 この思惑は宋楚瑜にとっても同じことだ。必要とあらば平気で人に土下座をしてみせることで有名なこの男は、今回の選挙でこそ副総統候補として連戦とコン ビを組んだものの、もともと彼らは不倶戴天の宿敵だった。この2人は4年前の総統選で激しく競り合っていたが、九分どおり勝利をつかんだと目されていた宋 は、土壇場で連にかつての汚職を暴露されたため、陳水扁に漁夫の利をさらわれるという痛恨の体験をしている。まだ若く、野心に溢れ、権謀術数に長けたこの 男は、自己保身のためいま暫時連と共同歩調をとっているものの、もう先行きに限界の見えた連と心中する気などさらさらない。近い将来、ほどよいタイミング を狙って、彼が連の面前でクルリと掌を返してみせて、4年前の借りにたっぷり利子をつけてお返しするかもしれない。彼はそんなことを人に想像させる、「叛 服無常」の人間なのである。

 中国派の将来を占う上でいま1人のキー・パースンは、映画俳優顔負けの美男子である台北市長の馬英九。「女性票で当選した」とか「フェロモンで勝負して いる」とかいろいろやっかみ半分のことを言われているが、弁舌もはなはだ巧みであり、かつて現役の陳水扁台北市長を破って当選した人気は侮り難いものがあ る。かつての国民党幹部の多数が野に下り、現役の国会議員も年末の選挙如何で去就不定となる状況の中で、地方自治体の長である馬(外省人としては稀な存 在)だけは、あと2年の首長としての任期が確実に保証されていることから、その後は2008年の総統候補にと、中国派の間で彼へのよび声は高い。しかし馬 が悪評にまみれた国民党から出馬する限り、当選などまずありえない。そのあたりの打算からか、最近の馬は連の国民党と意識的に距離を取ろうとしているよう に見える。

 こうして見ると、今回の選挙の前後を通じて、その振舞いにおいて最も拙劣を極めたのは連戦を措いてないと言えよう。彼は戦前台湾人の父と中国人の母との 間で中国で生を享けた。戦後台湾にもどった父は中台両言語を操る便利な存在として蒋政権に重用され、厖大な資産を築く。息子連戦は中台融合の象徴として、 一種の政治的装飾として、幼少時から常に実力以上の優遇を受け、若くして高官にとり立てられ、ミス・チャイナを嫁にした。こうして彼はイソップ物語のコウ モリのように、鳥にも獣にも信用されない存在に育った。星霜移り、やがて台湾本土化が叫ばれる時代になったとき、彼は永年愛顧を受けた李登輝氏を裏切っ て、中国側に投じた。

 朝日新聞によれば、6月18日、国民党の党員集会において、敗退の責任をとらないからと、党主席連戦が公然と批判されたという。因果は巡るというが今度は連が裏切られる番だ。もしかすると、これが国民党の終わりの始めになるのかもしれない。
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