SARS禍に思う (2003年07月号)

 

 4月上旬以来、私には気が滅入るやら、腹が立つやらの毎日が続いている。

 4月2日 新宿御苑に臨む金美齢事務所にて恒例の花見パーティを開く。招待客の中に台湾医界連盟理事長の呉樹民氏を団長とする訪日医師団の一行も いたが、彼らはこの日東京で記者会見を開いて、台湾のWHO加盟に対する日本の支援を訴えた。台湾は最初のSARS患者の発見を3月14日の時点でいち早 くWHOに報告したのに、非加盟国ゆえに専門家の支援を受けられなかったという。

 4月8日 年初から企画していた第3回「金美齢と行く台湾ツアー」の中止を決定。即刻ホームページ上に掲示。5月初旬出発の予定で、すでに多数の 申込者があったのに、SARSのためとはいえまことに無念。台湾のSARS患者はまだ数名、死者は0だが、このような事は早目の決断と行動が何よりも肝 要。

 4月13日 飛行機材変更のため予定を1日くり上げて台北に飛び、この日開催された募金大会に出席する。これは5月11日挙行予定の「正名運動 10万人大集会」(呼びかけ人・李登輝前総統)のための募金活動で、早くからスケジュールが組まれていた。「正名運動」とは私たちの国名を正して「台湾」 にしようというものであるが、この大集会に関して私は日本地区の責任者なので、SARSが怖いからと金を持っていくのをやめる訳にもいかない。この時点で 台湾の感染者累計は十数人、死者は0。

 4月17日 東京にもどる。娘夫婦・息子夫婦および4人の孫に対して、10日間の"接近禁止令"を自ら宣言するが、40年間一緒に暮らしてきた夫だけは致し方ない。

 4月23日 専務理事を務める日本語学校にてSARS対策を指示する。今後遅れて来日してくる台湾および香港からの留学生に対しては最初の10日 間は自宅待機させ後日補講する案に、在学生の安全確保が最優先と教職員一同納得。因みに、本年4月号に書いた理由により、中国留学生をとっていないので、 こんな場合とても安全で助かる。人間万事塞翁が馬、何が幸運になるか分からない。

 4月30日 5月の10万人集会が9月6日に延期されたと台湾から連絡があり、正直なところほっと一安心。実はここ数日、台北大集会に出かけるべ きかどうかでハムレットの苦悩に陥っていたのだ。40数年来政治運動に携わってきて、事に当たって私は逃げたりはしなかったのだが・・・。「政治悪に反抗 するのは勇気だが、SARSウィルスを恐れないのは単なる無謀だ」とは夫の集会開催反対論。

 5月11日 今日が大集会の予定日だったが、延期はやはり正解。台北では感染が急速拡大中。

 5月17日 新聞各紙に「来日中に台湾人発症」の大見出しが躍ってギクッとする。ついで腹が立った。彼ら21人の医師団一行は、なぜこのような危 険なタイミングに、不要不急の観光旅行に来なければならないのか。台湾では防疫対策に大童で、ネコの手も借りたい状況だというのに・・・。

 5月18日 昨日以来「台湾人医師」とテレビが言うたびに身が縮む思いがする。台湾の外相は17日に、翌日には駐日代表(大使)と在日台湾同郷会 が、日本に対してそれぞれ謝罪表明をしたが、台湾の中国寄り新聞各紙はこれを非難した。死んでも非を認めない4000年の"面子の文化"よりも、人に迷惑 をかけたら謝るのが当然とする方が、ずっと大人の成熟した文化だと思う。


 5月19日 問題の台湾人医師が勤務する病院が開いた記者会見の席上、日経新聞記者が「中国がウィルスを世界にまき散らしたと、責める資格があるのか」 と台湾を批判した。テレビで見る限り若い人のようだが、無知とは恐ろしいものだ。台湾が責めているのは、中国の政府自体が情報を隠蔽した上に、台湾の WHO加盟を阻害してきたことなのだ。台湾の場合は、感染確認後政府が即刻事実を日本に通知し、公的に謝罪している。一私立病院に対してこんな居丈高な物 言いをするこの記者は一体どこの何様なのか(まさか中国の回し者ではあるまいが)。しかし、日経新聞は安心されたい ― 台湾はこんな事で記者追放をするケチな国ではないから。


 5月20日 ジュネーブでのWHO総会で台湾の加盟がまた否決される。1997年以来7回目だ。一国の横車がまかり通る国際組織とは何か ― 国連信仰否定論」に傾きたくなる心情である。

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