日台友好への不断の努力を (2008年09月号)

 
 国民党政権が復活して2ヵ月、日台関係はギクシャクするだろうと予見していたが、まさかこんなにも早く事が進展するとは、、、、、、寒心に耐えない。

 5月20日に政権の座についた国民党の面々にとって、6月に尖閣諸島沖で起きた日本の海上保安庁巡視船と台湾の遊漁船の衝突事故は、 「反日ののろし」を揚げるのに格好の出来事であった。馬英九総統本人は無為無策を旨とするので、事を荒立てるつもりはないが、まわりを取巻く対日強硬派に は絶好の政治的イッシューなのだ。劉兆玄行政院長(首相)は「開戦の可能性も排除しない」とまで言った。中国的大言壮語ではあるが、実際的措置として、許 世楷駐日代表の本国召還と外交部内にある日本専門の部署「日本事務会」の廃止を決定した。

 更に法務大臣に当たる司法部長に王清峰という女性弁護士を任命した。彼女は、かつて従軍慰安婦問題で反日運動を主導し、小林よしのりさんの「台湾論」を槍玉に挙げた張本人である。

 最近、台湾のメディアは「本土企業家」白文正の自殺について大きく報道している。「本土」と冠がつくのは台湾派を意味する。週刊「新台 灣」はカバーに大きく「紅衛兵鬥争」「逼死白文正」とある。つまり紅衛兵の攻撃によって、死に追いやられたということである。なんだか文化大革命の悪夢が 台湾で再現されそうな気配だ。

 発端は考試院院長の候補リストに張俊彦の名が挙がった事に始る。考試院とは人事院のような組織で、全てのキャリア公務員の試験を司 る。他国にはない、「科挙」の名残りであり、院長は大臣に相当する。張氏はITの専門家で交通大学学長であった。その経歴からして、十分な資格を有するの だが、国民党(ブルー)にとって許せないのは、彼が民進党(グリーン)に近かったとみなされていたからだ。

 張氏を引きおろす為に狙われたのが、張氏のサポーター白文正である。「新金融商品の父」と称された白氏はサクセス・ストーリーの主人 公なのだが、メディアが一斉に彼の「背任」と「インサイダー取引」スキャンダルを確たる根拠もなく騒ぎたて、検察を動かした。決定的な一打は「金で学位を 買った」という誹謗中傷である。交通大学より名誉博士号を受けていたのは金の力であると言われ、白氏は死を選び、張氏は「院長候補」を辞退した。

 「次のターゲットは誰だろう」とグリーン陣営の企業家は、否が応でも低姿勢に徹せざるを得ない。

 日台間に正式な国交はないが、日本には実務的レベルを維持する目的で設立された「交流協会」、台湾には「亜東協会」があり、東京に大使 館の業務を遂行する「台北駐日経済文化代表処」がある。台湾の政権交代と折悪く発生した漁船事故で、この両方の代表は同時に交代と相成った。

 本国に召還された許世楷駐日代表は冷静な対応を呼びかけたが、逆に国民党の国会議員から売国奴を意味する「台奸」と批判された。

 「議会で報告した内容を非難されるのはいい。しかし、何も説明する前に侮辱されるのはがまんできない」

 耐え難い屈辱を受けた彼は自らその職を辞すことを決断し、辞表を提出した。

 彼が受けた屈辱はそれだけではない。台北で彼がホテルから出てきた時、愛国同心会という中国の右翼団体の男が後ろから体当たりで彼を突 き飛ばした。幸いにも彼にケガはなく、彼はその場で男を取り押さえたが、男は知らぬ存ぜぬと嘯(うそぶ)くばかり。警察に引き渡しても、何の処分も下され なかったと聞く。いまや警察まで、国民党の顔色を伺っている。

 池田維前交流協会台北代表は7月10日の帰任前、産経新聞のインタビューで「総統自身が反日的とは思わないが、メディアの扇動で世論 が反日に傾く可能性がある。総統の意図がどうであれ、中国との関係改善が進む中、日本との関係が今後、希薄化する危険性もある」と指摘している。(産経新 聞7月18日付)

 幸い、池田前代表は帰国しても誰からも後指を指されることはない。日本社会は日台交流に尽力した外交官を暖かく迎えることだろう。許 代表にしても、任期中の貢献からみれば、むしろ勲章ものである。それなのにこの体たらくだ。両者に対する受け入れ姿勢の違いこそ、両国の現状を映す鏡であ る。

 馬政権の対日政策に一喜一憂しても意味はない。今後やるべきことは、日台友好への不断の努力であろう。
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