台湾総統選異聞 (2004年06月号)

 
 台湾の中央選挙委員会が陳水扁総統・呂秀蓮副総統の当選を公告したのは3月26日のことである(公告の張り出しは連・宋支持者に実力阻止されたが、当選 が法的に確定したことには変りない)。あれからほぼ一月、「選挙のゴタゴタはその後どうなったんですか」と最近よく訊かれる。当初は"総統銃撃自作自演" 説に始まり、"選挙不公正""当選無効""選挙再実施"などと連・宋の敗者コンビ自身が次々と打ち上げる大仰な主張を、これまた中国統一派に圧倒的に牛耳 られている台湾のマスコミが更に尾鰭を付け加えて喧伝したため、日本でもかなり話題になった―「陳総統だいじょうぶ?」

 しかし、彼らが派手に打ち上げたのは結局のところファウル・フライばかりで、不正(ファウル)な
プ レイは彼らの方だとすぐ見え見えになってしまった。例えば、彼らは総統と副総統が銃撃されたこと自体を疑問視して次のように言う。台南市金華路上薬莢が発 見された位置から2人の負傷が発見された位置まで街宣車で約5分間の距離。本当に銃撃されたのなら、2人が5分間ものあいだ気付かなかったのは怪しい。し かも救急病院に着いたとき総統は歩いて診察室に行った。これは負傷などなかった証拠で、すべては同情を買うために仕組まれた芝居である。

 3月23日、政府幹部との懇談会で、陳総統は上記の疑問に間接的に次のように答えている。
 「最初私は爆竹が当たってケガしたと思った。同じ事を過去に何度か経験している。痛さは尋常ではなかったが、沿道の人々の意気に影響を及ぼしてはならな いと思って我慢した。(中略)病院に到着したとき、用意された担架と車椅子を断って自分で歩いた。私は現任の総統であるから簡単に倒れることはできない。 また総統候補者であるという意味からも倒れることはできなかった。だから痛さを堪え、歩いて診察室に入った。」

 一国の指導者としてまことに高貴な、天晴れ至極の精神である。しかし惜しむらくは、もっぱら詭計と謀略のみを事としてきた連・宋の徒輩の下劣な心情で は、このようなノブレス・オブリージュ(高い身分に伴う義務)の感覚は到底理解できまい。だから私も、彼らが分かるよう同じ低次元の発想に立って、以下の 2点を付け加えておきたい。

 (一)もしこれが同情票を狙っての自作自演なら、意図して陳総統の下腹部に長さ11センチ、深さ2センチの"ほどよい"弾痕を残し、且つまた呂副総統の ヒザに擦過傷のみを記すにとどめた神業の名狙撃手は、ゴルゴ13とジャッカル以外にこの世に存在するのだろうか。残念ながら二人とも架空の人物だ。

 (二)自作自演のシナリオなら、陳総統は街宣車の上で大袈裟にのけ反り、沿道の人々がみな聞こえるように苦痛の大声をあげてみせたであろう。また病院で は、これ見よがしに担架でかつぎ込まれたに違いない。実際の行動はちょうどその正反対だったのであるが、連・宋陣営でだれもこの矛盾を言わないのは、狡い のか?はたまた頭が悪いのか?ましてや呂副総統の場合は、総統に膝の出血を指摘されるまでは負傷に気付かず、懸命に沿道の民衆に手を振っていたというのだ から、自作自演だとしたら最低の役者ということになる。

 以上は私の推論であるが、頭の悪い連・宋陣営がなお執拗に負傷の事実事態を疑問視して煽動するので、遂に病院長が傷口の写真を公開して証言する騒ぎと なったが、彼らはそれでも、あれは後日自分でつけた傷だと言いはやす始末だ。そこで遂にアメリカからO.J.シンプソンの殺人事件の裁判で名高い法医学者 ヘンリー・リー博士を長とする専門家の一行を招致して、傷口の法医学的鑑定をした結果、無責任な流言飛語もやっと下火になった、というお粗末な一席であっ た。

 連・宋一派は権力を再奪取するまで、この手のゴタゴタをいつまでも続ける気だと思われる。有ることないこと何にでも言いがかりをつけて騒ぎを起こす才能 にかけては、彼ら中国人は天下一品なのだ(去年の西北大学での反日騒動で日本人にも思いあたる節があろう)。彼らの狙いは騒乱状態を作り、中国に介入の口 実を与えることであろう。中国政府はすでに「混乱状態に陥れば干渉も辞さず」との声明を出しているが、「居留民の安全保護のため出兵」するのは、ほぼ 100年前、帝国主義列強が中国に対してとった常套手段だった。今や中国が帝国主義者となり、介入する側になった。世の中変れば変るものである。
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