国を助けることは、自己を助けること (2008年12月号)

 

 10月15日昼過ぎ、事務所の掃除をする会社に、支払いする為、ATMを操作していた。メカ音痴に加えて、老眼なので請求書の小さい文字にモタモタしていたら、後ろから肩をトントンと叩かれた。中年の見るからに立派な銀行マンだった。「何か振込ですか」。その日が年金支給日で、振り込めサギ防止の為、警察が動員され、銀行も警戒体制を組んでいた事を翌日の報道で知ったが、それでも600万円の被害が出たという。その時はとりあえず注意をしてくれた方に「ご苦労さまです」と礼を言ったが、おかしいやら、面白いやら、自分がどこから見ても白髪のバアサンだと思い知らされた。

 「オレオレ詐欺」の電話を受けたことはない。かかってきたらからかってやろうと手ぐすね引いているが、トンとお呼びがない。ATMでの出会いで話のタネができた。敵もさる者で、高齢者に狙いを定めているが、それにしても、被害者は無防備すぎる。甥と称する男が差し向けたバイク便か何かのメッセンジャーに1,000万円渡した人のことをテレビで報道していたが、余りにも簡単に事が運んだので詐欺犯は翌日更に500万円要求し、それもマンマと手に入れた。

 後期高齢者医療制度問題で「年寄りに死ねと言うのか」と大騒ぎしている人もいる一方で、1,500万円の大金が右から左へと出てくるのに驚く。更にそんな大金を見ず知らずのメッセンジャーに渡す不用意さにもっと驚く。甥を助けるのなら、せめて当人に手渡すという考えはなかったのか。理解に苦しむ。

 20日産経新聞一面のコラム「信認危機に対処せよ」で「深刻な株価下落に見舞われた先々週、アメリカの株価が18%低下したのに対し、日本は24%の下落を経験している」と竹中平蔵教授が述べている。サブプライム問題で金融危機を引起した張本人のアメリカより、直接的な影響が小さいと言われる日本の下落が大きいのはなぜなのか。現在の日本社会は理解に苦しむことだらけだ。

 実は、年明けの台湾で同じような記事に出会っている。年の始め(1月4日)、台湾の新聞に、主要国の株価一覧が掲載されていた。台湾は経済事情が悪いと言われ続けているが、それでも07年の株価は約8%上昇、アメリカでさえ前年比プラス。その中で唯一マイナス12%で前年割れしていたのが日本だった。現在の下落も国民の国に対する不信からくるジリ貧ではなかろうか。このままでは日本は衰退の一路を辿ることになる。一番の問題は「日本人が自信を失っている」ということだ。

 話は突然変るが、台湾で大ヒットしている映画「海角七号」は製作費が少なく、話題にもならない作品だったが、上映されて2ヵ月で、台湾映画の興行成績トップに躍り出た。奇跡的に、全ての国産映画の記録を破ったのである。週刊誌「新台湾」は「海角七号很台灣 撫慰受傷本土派」(リアルな台湾に回帰した映画に、傷ついた本土派=選挙に大敗した台湾派=が癒される)と題するカバー・ストーリーをはじめ、30ページ近くを割いて分析紹介している。

 残念ながら、日本でその作品を観る機会は未だない。主演女優田中千絵は日本で下積みの苦労の末に台湾でやっとチャンスを掴んだ、と報道された小さな記事を読んだ記憶がある。戦後63年の時間が経過しても、1895年から1945年まで続いた50年の日本統治が鮮明に反映された映画の成功は、日本でも特筆されるべきである。映画は、日本敗戦後、引き裂かれた日台二人の愛し合う若者の別離のシーンから始まる。引揚げの船中にいる教師。岸壁には万感を込めて見送る教え子。教師は物陰に隠れて、教え子にまともに相対しない。それでも二人は一瞬目を合わせる。日本人が敗戦により、自信喪失、自虐の一途を辿る象徴的なシーンと思われる。

 リアルな台湾には日本文化が色濃く滲み、映画に寄せる台湾人の思いと誇りは、日本人に、日本に対する思いと誇りを呼び覚ますに違いない。海角七号とはアドレス。英語はCape No.7。「The Cape of Good Hope(喜望峰)」を連想させる。

 身内可愛さ故に振り込めサギに引っかかる。最も大切で大きな身内、国の為にも、とりあえずメード・イン・ジャパンに回帰しよう。食品、衣料品、工業製品。日本製品は少し割高でも安心、安全。地味な消費行動でも景気向上の手助けになる。

 大金持から小金持まで、日本にはまだまだ余裕のある人が大勢いるはずだ。国を助けることは自己を助けることにもつながるのだ。

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