一国のリーダーは明るい人、陰々滅々では国の将来暗し (2008年11月号) |
9月23日、新聞各紙を取り揃えて目を通してみた。かねてからマスコミの報道には意見があるので、自民党総裁選が如何に取り上げられているのか興味深々であった。
一面のトップを飾ったのは、産経、読売、毎日。朝日は上段に「三菱UFJ、モルガンに出資」と経済ニュースをトップ扱い、下段に「自民総裁に麻生氏」。申し訳のつもりか見出しの活字がやや大きい。日経は一面の右に「三菱UFJ、モルガンに出資」左に「自民総裁、麻生氏が圧勝」。経済ニュースがトップにくる日経は理解できるが、日経と同じタイトルをもってくる朝日には疑問がある。意識的に自民党総裁選の盛り上がりを抑えたいのだろうか。それでも以降には読むに値する記事が多かった。わけても「私の視点」で塩川正十郎(元財務相・元自民党衆院議員)の「麻生新総裁 総理の『本分』、小沢氏と競え」は示唆に富むコラムであった。
コラムで塩川氏が指摘した、総裁選の論点で最も本質的な課題が抜けていたことについて、自民は今後しっかり対応する必要がある。選挙戦がいつになるのか、一寸先は闇、にしてもここ数ヶ月は常に臨戦態勢であろう。
一つ目の最たる課題は衆参のねじれである。誰が自民党のトップになろうが、この状態は変わらない。世論調査で次の首相第一位を獲得する麻生氏にしても、現状は変えられない。
「総裁選で議論されなかった二つ目の問題は、国際関係の再構築である」(中略)「インド洋での給油活動継続の必要性について口をそろえて語るだけで、国際関係を再構築するビジョンは聞かれなかった」、との塩川氏の指摘については9月19日の産経一面、岡本行夫氏の特別寄稿「アフガンから逃げるな」を大いに利用すべきである。6,000字を越える長文を一気に掲載した産経に敬意を表するが、何よりも岡本氏の現状を憂う情熱に頭が下がる。外交官としての実体験。しばりが多すぎて思う存分動けないことを考え、エリート官僚のポストをあっさり捨てて、民間人として八面六臂の活躍。根底には外交問題のプロとしての見識と日本人としてのゆるぎない覚悟がある。見出しだけでも「 "国際互助会"から脱退する日本」「『テロの圏外』許されぬ」「国の生きざま選択岐路」と氏の言わんとすることは伝わるが、引用したい箇所が多すぎて困るほどである。
「世界が首をひねる理屈で、野党は補給艦をインド洋ソマリア沖から引き揚げようとしている。その時点で日本はテロとの戦いの最前線にはいっさい関与しなくなり、世界の互助会から抜けることになる。自国商船隊の保護任務すらほうりだして人任せにすることになる」、有権者には一票を投じる前に岡本氏の提言を熟読してほしいものである。
更に産経の9月18日に始まった連載「私の小沢一郎論」が面白い。トップバッター奥島貞夫・元自民党幹事長室長の「首相にならぬこと祈る」は圧巻だ。小沢氏自身「変る」、周りも「変った」と言うが、人間はそんなに簡単に変るものではない。中国語で「江山易改・本性難移」(領土を変えるのはたやすいが、性格を変えるのは至難の業)と言う諺がある。このシリーズも必読の企画だが、問題はどうすればこれらの活字を有権者に届けるか、である。これほどの説得力は第三者だからこそ。政治家の口から出るのとは重みが違う。
それでも総裁選後の記者会見で、新総裁が焦眉の急である補正予算案について「野党が反対するのは常識的に考えにくい」と述べた言葉は聞くに値する。
選挙用のスローガンは常に短く、インパクトのあるフレーズになりがちだが、国家の基本的な問題を、じっくり根気よく説明していくべきだ。限られた時間ならば、人海戦術でいけばよい。枝葉末節でなく、王道で行ってこそ、起死回生がなる。
弊著「政治家の品格、有権者の品格」では、岡山の有権者が「姫の虎退治」に踊らされた愚を指摘した。岡山で講演した折にも、満場の参加者に向けて「姫井なにがしに投票した人は反省して下さい」とまで言ってのけた。残念ながらそれでも姫井議員六年の任期は揺るがない。次の衆院選では有権者の品格向上を期待したい。
総選挙で過半数を得ることができれば、それは直近の民意であり、野党も参院の数を乱用できなくなる。いずれにせよ、一国のリーダーは明るい人が望ましい。陰々滅々では国の将来も暗くなる。