バカラの花瓶 (2012年08月22日)

 

 特にこれといった予定のない週末って久しぶりです。それでも日曜日は息子家族としゃぶしゃぶをいただきました。暑い中での鍋料理も乙なものです。20日月曜日は歌舞伎、この夏の最大の楽しみだったかもしれません。新橋演舞場八月公演夜の部、伊達騒動のお話で、海老蔵が十役やる、一人十役の歌舞伎独特の早変わりです。あっという間に違う役になり替わる、本人はもちろん、スタッフも大変な訓練を積み重ねて成り立っているのでしょう。じっくり芝居を観せてくれるほうが好きなのですが、これも歌舞伎の売りのひとつ、体力が充実していて、役作りの力があり、それだけの華もある、そんな役者が十役早替り宙乗りを観せてくれるというのも、観劇側としてはやはり至福のときです。

 友人が、放出チケットをインターネットで毎日チェック、13日夜にいい席が見つかって、購入を保留したまま、大騒動の末わたくしと連絡がついたのですが、残念ながら歯医者さんの予約と重なってこれは見送り、その次に見つけてくれたのが今回のチケットでした。その友人の評価では、最初のチケットはなかなか手に入らない理想的な席、これを100点とすると、今回は90点、とのことでしたが、もう手に入らないかもしれない、との思いから見切りをつけて購入しました。案の定、放出チケットはその後出ていないようです。

 夜の部は4時半から、8割ほどが女性です。わたくしの前の列はずらっと女性、でもすぐ前の席だけが男性、頭一つ高く、それが実に残念でした。平日ですから現役で働いている人は当然無理で、女性が多いのは仕方ないことなのですが、これだけ大勢の方が芝居を楽しむ姿を目の当たりにすると、思いは少し複雑です。領土問題で大変な事件があり、中国で激しい反日デモが起きている、そんななかで、海老蔵の十役を楽しもうという人がたくさんいる、こういう場が持てる日本社会の奥行の深さを思うと同時に、この人たち領土問題を考えたことあるのか、との思いもありました。こういう余裕を持ちつつ、社会全体、国全体のこともしっかり考える、そうであってほしいと願いながら演舞場を後にしました。

 前日の日曜日、息子家族宅の玄関を入ると素敵な花瓶が大小ペアで2本、バカラで鋭角的なかたち、黒の輪島塗の台に乗っています。おお、いいね、と眺めていると、これどうしたんだろう、って息子、何言ってんのよ、私があげたんじゃない、とわたくし、引越したときに息子にあげたものです。季節に応じてときどき変わる玄関の飾り物、この鋭角的なデザインが夏によく似合う、と嫁さんが選びました。2本並べて飾ると素敵、と考えて大小のペアで購入し、とても気に入っていた花瓶、一瞬、やっぱり返してもらおうか、と思ったほどです。

 バカラとかラリックとかの花瓶や食器が好きで、何十年もかけて買い集め、亡夫・周英明からは、ほとんど病気、とまで言われていた時代がありました。でも整理整頓の歳となり、引越しを機に息子や娘にあげて、最後には、置く場所がないからもういらない、とまで言われるほど整理したのです。そうやって最後に残ったお気に入り中のお気に入りを持ってきたのですが、昨年の震災で全て壊れました。このバカラ、持ってこなくてよかったのかもしれません。

 この日はしゃぶしゃぶ、飲み物はシャンパンでした。いただきもののドンペリのヴィンテージ、ヴィンテージというのは年代物とのこと、これはやはり自分で飲むきゃない、と開けました。嫁さんは元キャビン・アテンダント、ボトルの開け方も注ぎ方もプロ、そんなプロのサービスを楽しみながら、わたくし自身はさほど飲んだ覚えはないのですが、3人で1本空けてしまいました。シャンパンを飲んでしゃぶしゃぶを楽しむという、ちょっと豪華な週末でした。

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