蔡英文さんの敗北宣言によせて (2012年02月03日)

 

 蔡英文さんの敗北宣言へのわたくしの思いを美齢塾メルマガで発信しましたが、1週間以上おいて本メルマガにも掲載いたします。合わせて敗北宣言全文の日本語訳も掲載いたします。お読みください。

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 台湾の総統選挙が終わり10日がたちました。周囲の人たちが私がよほど落ち込んでいるのではないかと心配してくれているのですが、実は少しだけ、あの選挙で台湾にとって収穫があったと思うことがあります。

 一つは選挙後、蔡英文さんが雨の中で、スタジアム一杯の支持者を前に行った敗北宣言の演説をあとになって聞いたからです。
 普段泣かない私ですら、ほんの少し、目頭が熱くなるような感動的な演説でした。
 この演説を聞いて、蔡英文さんはこの選挙を通じて人間的に一まわりも二まわりも成長したことが分かりました。彼女を応援していて、本当によかったと心から思いました。おそらく、雨のなか、びしょぬれになりながら、敗北した彼女をスタジアムでまっていた大勢の支援者たちも、みなそう思ったはずです。
 演説の中で、台湾には強力な野党が必要だという話がありました。その通りだと思います。609万票分の台湾人の気持ちを馬英九総統だろうが国民党だろうが中国だろうが無視はできません。

 二つ目の収穫は、選挙が中国にどんな影響を与えたか、ということです。馬政権二期目が今後、どういうような方針を打って出るか、中国との関わりをどうしてゆくのか、私にはわかりませんが、一つ言えるのは、今回の選挙は、中国側は喜ぶ結果に終わったでしょうが、そのことが、何がしかの影響を中国与えたのではないか、ということです。

 以前に「たかじんのそこまで言って委員会」という番組の中で、中国の女の子が「日本で自由な選挙が行われているけれど、それでどれだけ日本の政治がよくなっているの?選挙がどれだけいいの?」と発言して、出演者が答えに詰まることがありました。
 しかし今回、中国はいろんな形で馬英九を援護射撃して、その結果、馬総統が勝ちました。自由選挙に中国がここまで関わったことについて、中国人はどう思ったでしょうか。実際、今回の選挙ほど、中国で話題になったのも珍しいそうです。主だった新聞は特派員まで送って台湾選挙を取材し、ネットでも選挙の話題で盛り上がりました。それこそ、まるで中国が選挙をしているような話題沸騰ぶりだったそうです。
 多くの中国人は中国政府が支持している馬英九支持で、サッカーの試合を応援するような気持ちで選挙の応援をしていたのでしょう。馬英九が勝利したことを、自分が選挙に勝ったように喜ぶ人も多かったと聞きます。中には「台湾は選挙ができてうらやましい!」「中国でも選挙ができたらいいのに!」という発言も、ブログや微博と呼ばれる中国のマイクロブログで見られたそうです。産経新聞の報道によると、「馬英九に祖国統一してもらいたい」「馬兄貴よ、大陸を解放してくれ」などと、共産党一党支配体制からの脱却で馬氏と国民党政権に期待するコメントもあったそうです。
 
 中国は自らも援護して馬総統を勝たせたと思っているかもしれませんが、台湾の総統選挙に中国がこれだけコミットしたことは、中国当局にとってもろ刃の剣になったと言わざるを得ません。台湾でこれだけの選挙がやれるのに、どうして中国ではやれないのか、我々は一体何なのだと言う声が中国で出てきても不思議はないでしょう。
 
 選挙は負けたけれど、蔡英文さんがその夜に行った最後の大集会の立派な演説は、台湾人に大きな慰めと勇気と希望を与えました。蔡英文という人材がこの選挙を通して育ったということは台湾の希望です。彼女はまだまだ若いし、次のチャンスもあるかもしれません。今回の選挙結果は悔しかったけれども、中国人が台湾の選挙に刺激を受けて自由と民主主義に目覚めるきっかけになるやもしれない、そうあってほしいという希望があります。今回の選挙から、この二つの希望を収穫として得ることができました。
 これは負け惜しみではありません。なぜなら、彼女の最後の演説を聞いたとき、この私が涙ぐんだからです。私は悔しいだけでは泣きません。腹が立つだけでも泣かない。でも、感動すると泣くことがあります。台湾人もがんばっていることが、しっかり伝わりました。609万票の力を合わせれば強い野党として、現状維持のためにがんばっていくことが出来ます。あとは、中国が変わるのを待つしかないのですが、これは他力本願ではあるけれど、台湾のがんばりを中国に見せつけてゆくことで、中国の普通の人々が何がしか影響を受ける可能性もあるのです。
 蔡英文さんの演説はあまりに素晴らしいので全訳を下にアップします

*****蔡英文敗北宣言 1月14日夜 ******

 ありがとう、みんな、ここで、こんな雨の中で待ってくれて。みんながこのように、情を通わせ、私たちが来るのを待ってくれて、まずこう言いたい。ありがとう、みんなありがとう。
 この場にいる友人たち、テレビの前の同胞たち、ネットユーザーのみなさん、こんばんは。
 きょうの2012年総統選挙の結果、私は敗れました。みんなには深くおわびいたします。

 私たちは敗北を認めます。そして台湾人民がこの選挙で選択した決定を受け入れたいと思います。とても多くの支持者が私のこのような話を聞き、心が張りさける思いでしょう。しかし、ここで私たちはやはり馬総統におめでとうと言わねばなりません。そして彼が今後四年、人民の声に耳を傾け、心して執政し、すべての個人に対し公平に対応し、人民の期待を裏切ることのないよう願います。

 私は今このとき、みんなの気持ちが分かります。きょう、多くの人たちが勝利を期待していたことでしょう。しかし、現実は人が願うようにはいかなかった。しかし、私はみんなに言わねばなりません。気を強く持たねばなりません。しっかりせねば。以前にもましてしっかりせねばなりません。私たちは民進党です。過去に挫折に直面したときも、くじけたことはありません。以前になかったのです、今回もくじけることは絶対にないと分かっています。

 もう一度思い返してください。四年前、こんな絶望を経験し、それでも山の頂にむかって挑戦せねばならなかった。その山の頂とても遠くて、力及ばないと思ったこともありました。しかし、私たちは歯を食いしばり、全党団結して一緒に、この四年一歩、一歩前に進んできました。今回は、もう少しで頂上にたどり着くところでした。私たちはあと一里のところまで来たのです。
 みんな、こんな結果はとても遺憾でしょう。でも私たちはすべてを失ったわけではない。
 私たちは小額寄付を集め続け、新しい政治のモデルを打ちたてました。私たちは政策を主張し、台湾の未来の発展において、依然、鍵となる力となりえました。

 最も重要なことは、私たちの団結の力は、あだやおろそかにできる力ではなく、これはひとつのパワーであり、砕け散ることもなく、消え去るものでもありません。あなた方は、うなだれ志を失う必要はない。台湾に反対の声が無くなることなどあり得ない。台湾に抑制均衡をとろうとするパワーが無くなることなどあり得ない。今後の四年、私たちは執政者の立場で私たちの理想を実戦することはできませんが、それは野にいて影響力がないということ意味するわけではありません。

 みんなが引き続き私たちの後方で私たちを支持して、励ましてくれさえいれば、私たちにはまだ未来があります。次こそ、私たちが最後の一里まで山を登りきることができるのです。

 次に、私は民主進歩党主席の立場として、みんなが民主進歩党立法委員候補を支持してくださったこと、それが民進党の国会議席拡大につながったことに感謝を述べたい。彼らは今後、立法院において、人民の代弁者として、人民の困難に心を砕き、公共政策の質向上に努力し、すべての国民がみな最もよい政治の恩恵をうけるようにしていくことでしょう。

 民進党の改革はとどまることがありません。私たちは弱者の立場を堅持し、政策理性を堅持し、小額寄付でもって財団に依存する政治を脱却します。そうしていつか、私たちが多数の人民の信任を勝ち得ることでしょう。

 私たちは非常に努力しましたが、最後の理想を完成させるには、まだ道は想像以上に長く、まだ頑張らなくてはならない。今日の結果に向き合い、民進党は真剣に教訓をくみ取り、それを警告としなければなりません。

 敗戦の責任はすべて私が負うべきものです。私は今、民主進歩党主席の職を辞すことを発表します。次の党主席は必ず、民進党の改革転身の道を堅持し、みなを導いて歩み続けてゆくことでしょう。

 最後に、蔡英文個人の立場から、みなが一緒について来てくれたことに感謝します。この四年、本当に素晴らしい旅の道のりでした。私たちは肩を並べて戦いました。私の心の中では、みんなはただ私の投票してくれた有権者ではありません。みんなは私の最高のパートナーでした。


 今晩、みんなは大変辛い気持ちでしょう。もし心が辛すぎて耐えられないのなら、それを吐き出してください。泣いてもいいです。でも、気を落とさないで。悲しんでもいい。でも、諦めないで。なぜなら明日は起きて、これまでの四年と同じように勇敢に希望に満ちて進まねばならないのだから。なぜなら、私たちは勇敢に国家の責任を負って、楽観をもって台湾のこの大地を切り開いていかねばならないのだから。

 むろん、私たちはどんな立場であっても、この国家が私たちを必要とし続ける限り、この国を愛し守り続けることでしょう。
 親愛なる台湾人民の皆さん、いつか、私たちはまた帰ってきます。私たちは諦めません。2012年のこの日、民進党を支持し、蔡英文を支持したことは誇りであったと信じています。私たちは頭をあげて、勇敢に歩み続けていきましょう。みんな、ありがとう。私の心は永遠に台湾人民とともにあります。

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