これからの台湾 (2012年01月16日) |
「残念!」です。14日の台湾総統選挙結果、こんな結果になるとは思っていませんでした。五分五分の勝負か、ひょっとしたら蔡英文さんが僅差で勝てるかもしれない、そんな一抹の希望を抱いていたのです。それが、開票直後から少し差が出て、時間とともにその差が拡大していくのをみて、これは負けたんだ、と考えるようになりました。600万票以上とった蔡英文さんは健闘した、とも言えますが、負けは負けです。
投票前、国民党の読みは50万票差で勝利、民進党側は10万か20万票差で勝利、でしたが、終わってみると80万票差での負けで、予想外の大差、と言わざるを得ません。同日選挙の立法委員でも64対40と、国民党に過半数を許しています。総統も国民党、立法委員も国民党、これからは国民党がやりたい放題となることは間違いありません。
国民党は世界一金持ちの政党、行政の全てを握っており、中国がバックアップしている。蔡英文さんにとっては最初からつらい戦いであったわけで、ここまでよくやった、とも言えます。中国で商売している、いわゆる台商と言われる人たち100万人以上に、中国は動員をかけています。飛行機を半額にして、優先的に割り当て、台湾での投票を促したのです。明らかな選挙介入ともいえる手段で国民党をバックアップ、何人が投票に帰ったか分かりませんが、10万人、20万人といった単位でしょう。わたくしの友人が、東京や神戸からわざわざ電話で、また新幹線で出会って、「台湾に行って(民進党に)投票してくる」、一人で、夫婦で、家族全員で、と言ってくださいましたが、数えることのできる人数、中国の動員とは桁が違います。
さらには、中国に投資して生産設備などを持っている大企業の経営者たちが、中国に首根っこを押さえられて、こぞって国民党寄りの発言をしました。とにかく台中関係を悪化させてはいけない、と訴えたのです。これで多くの中間派の人たちが流れて行ったことでしょう。
これからの台湾がどうなるのか。総統の任期は2期まで、馬英九にとっては最後の4年間です。「最終的には統一」と考えている彼の総仕上げとなるわけですから、台中の距離はますます縮まります。もし、この距離がゼロとなった場合、最も困るのは日本です。中国に対して台湾が第一線で戦っているときは、ゆとりが少しはあった日本ですが、今度は中国の覇権主義の脅威が直接迫ることとなります。中国の次のターゲットは尖閣、沖縄、すなわち日本、これは何回も申し上げていることです。
幸いにも、まだ半数近い台湾人、さらには国民党に投票した台湾人でも、中国とは一緒になりたくはない、と間違いなく思っているのですから、この人たちへの支援を、精神面でも、物質面でも、どんなかたちであれ、日本とアメリカが送り続けなければなりません。
総統選を現地で取材しているFさんによると、敗戦が明らかになったあとも、蔡英文さんの選挙総本部がある新北市板橋の近くのスタジアムでは数十万人規模の支援者が集まっていたそうです。夜になって降り出した雨のなか、電車やバスを使って集まった人たち、濡れるのも構わずに蔡さんが現れるのを待ち、仮設舞台では選挙応援団の女性リーダーが「今までたくさんの忍耐を重ねてきました。これを未来の力につなげていきましょう!国民党のライバルで居続けましょう!」と力強い演説を続け、蔡さんが現れると、数十万人の声援と拍手が響いたとのこと。蔡さんは「あきらめないで、民進党は必ず再起します」と訴えました。日本で、候補者と支援者たちが選挙に負けてなお、こんな力強さや希望を見せることがあるでしょうか、というのがFさんの感想でした。一縷の光明を見た思いがします。
もう一度気を取り直して、台湾が中国に呑み込まれないように、香港のように「一国両政の虚構」とならないように、台湾人自身が戦って、自由と民主の一員に残り続けなければなりません。そのためには、台湾人だけの努力ではどうにもならないところもあります。同じ自由と民主の近隣国のサポートがどれだけあるか、わたくしは祈るばかりです。