台湾総統選挙(夢叶わず) (2012年01月24日) |
昨年12月10日の本コラムでご紹介した台湾からの報告の続編が届きました。先回は総統選の解説でしたが、今回は選挙を終えての報告です。少し長文ですがぜひお読みください。
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臺灣通信(第五十八回)「夢叶わず」 作成日:2012年1月23日
1. はじめに
既にテレビや新聞のニュースでご存知と思いますが、2012年1月14日台湾で総統並びに立法院委員の選挙があり、私が予ねて応援しておりました民進党の総統候補蔡英文女史が国民党の馬英九候補に敗れました。立法院委員選挙も野党(民進党他)が善戦しましたが、国民党に過半数を制せられ、敗れ去りました。
勝った国民党支持者(藍陣営)は欣喜雀躍、夢破れた緑陣営は一斉に「欝」状態に陥ってしまいました。専門的解説は出来ませんが、素人、判官贔屓の報告をさせていただきます。
2. 選挙の結果は・・・・
投票はその日16:00に締め切られ、即日開票、各テレビ局工夫を凝らした画面に解説を交えて開票状況の速報開始。開票の場を直接見たわけではありませんが、ある小さな会の会長選挙の場に居合わせた事がありますが、役員が投票箱から投票用紙を一票一票取り出して、大きな声で読み上げ、その票を高く掲げて立会人に示す。別の係員が白板に「正」の字を書いていく。テレビでも票を一票一票掲げている映像が映し出されていたので、多分同じようにして開票を進めているのでしょう。
開票開始直後の最初のテレビ画面は馬英九100票、蔡英文2票、宋楚瑜1票とでましたので、私は一瞬アレッと思い、ちょっと不吉な予感がしました。30分後の画面、蔡英文79,458票、馬英九78,966票、宋楚瑜4,132票と蔡英文ほんの少しリード。60分後、馬英九が逆転し、蔡英文と馬英九の差は51,201票、以降30分おきの集計票差は終始馬英九がリード、約32万、35万、64万、70万、71万、72万、77万、79万、最終は21:30を回った頃、馬英九候補6,891,139票、蔡英文候補6,093,578票、両者の差は797,561票、すなわち約80万票の差で決着がつきました。尚、宋楚瑜候補の最終得票数は369,588票でした。
一方の立法院委員選挙の方は定数113議席を争いましたが、結果は、国民党は保有していた81議席を17議席減らして64議席、民進党は27議席しか保有していなかった議席を13増やして40議席、その他の政党は4議席増やして9議席となりました。これで国民党は一応過半数を確保しましたが、以前の2/3以上持っていた議席を大幅に減らした事になります。
数字としては選挙人数18,086,455人、投票人数13,452,016人、投票率74.38%でした。
そして蔡英文候補(民進党主席)は、敗北宣言の後主席辞任を表明しました。雨の中に立ち尽くす支持者の大群衆が皆涙を流しながら「留下來,不要辭」(残って、辞めないで)と叫ぶ、それに対して小英は「可以哭泣,不要放棄」(泣いてもいい、しかし諦めてはいけない)と民衆を逆に励ましながら、「有一天我們會再回來」(何時の日か、我々は再び戻ってきます)と呼びかけました。真に立派な態度で、多くの人々に感動を与えました。
3. 私の周辺の反応は・・・・
投票の翌日(15日)、屏東の竹田と言うところにある「池上一郎博士文庫」の周年祭(11年)に出向きました。やはりここは南部、民進党、蔡英文候補の地盤ですから当然、みなさん残念がっておられました。
ある人いわく、「これで台湾は終わりだ」、私が「4年後に期待しましょうヨ、小英は諦めてはいけない、我々は4年後に・・・・、と言ったではありませんか」と申し上げると、その方は「4年後に台湾が存在すればネ」。
また、ある人(海外在住)はメールで、「今回の選挙も負けて大変悔しい。国民党は代々台湾人から盗み取った多額の金で投票権を買収している(また買収される台湾人がいること自体悲しいが・・・・・・)国民党を倒す事の難しさをつくづく感じました。」と書いてきました。
そして台北のある方は、「小英の敗因は外国(中国と米国)の干渉である。一つは財界大物が投票直前に国民党支持を宣言したが、これは中国の台商に対する脅迫によるものであろう。米国による干渉と言うのは米国の在台湾協会(AIT)の前代表(実質駐台米国大使)が直前にワシントンの意向を伝えた事」であると。
新聞やテレビの番組中、盛んに「奥歩」(アオプ)という言葉が出てきます。これはずるがしこいやり方という意味です。国民党の集票システム(体制)は確立しており、誰が誰に投票したかを掴んでいるという噂を聞いたことがあります。特に地方では隣近所の付き合いなどから、また、いたるところに密かに目を配っている人がいるそうです。ある会合で、知り合いの人がこの中にもスパイが居るよ、と耳打ちしてくれました。このように表面的には何事もないように見えるが、影では色々な仕掛けが、色々な活動が行われているというのです。このような姿を四字熟語(成語)で「鴨子划水」というそうですが、アヒルが水上に静かに浮いているが、水面下では足を盛んに掻いているという意味だそうです。
4. さてどうしますか?
負け惜しみかもしれませんが、前回(2008年)の票差は国民党馬英九氏7,659,014票、民進党謝長廷氏5,444,949票で約221万票、今回は6,891,139票対6,093,578票の約80万票でした。有権者数、投票率(76%、74%)は大差ありませんので、民進党がかなり差をつめたと言えます。
国民党候補に投票した80万人の半分、40万人が民進党に投票してくれれば得票数は対に、同数になります。単純な発想ではありますが、4年間に221万の差を80万に縮めた実力を発揮して、今後4年間に40万人を我が陣営に引込めばよいのです。年間10万人です。日本の某宗教団体が昔、信者を増やすために「折伏」(しゃくぶく)をやりました。「折伏」とは、手許の辞書に寄れば、「《仏》相手の悪や誤りを打破する事によって、真実の教えに帰服させる教化法」とあります。一人何人とノルマを課して、否、民進党に投票した人が600万人いるのですから、14?15人がかりで1人折伏すればいいのです。尤も誰が誰に投票したかは、普通はわからないのが問題ですが・・・・。
5. NHKの解説
選挙の翌週、18日に当地のNHKテレビ番組「観点論点」で日本の大学の先生が次のように解説されていました。今回の選挙の争点は二つ、?対中政策、?経済問題で、前者の対中政策は過去4年間に馬英九総統が進めてきた中国への接近、融和政策、特にECFA(自由貿易協定)の結果(交流が進展)の評価、そして「九二共識」(92年の両岸コンセンサス)の有無、国民党はその存在を主張するが民進党は否定している。後者の経済問題は拡大する格差に対する政策であるが馬英九は大陸との交流が必要と説き、経済界も国民党を支持した。
解説者はこの選挙の背景を3つ上げ、?国民は経済発展を望み、現状維持を望んでいる、?国民党は資金、組織面で若い民進党より勝っている、?中国、米国がこの選挙に対して陰に陽に干渉した。
そして今後の課題として、馬英九は信任されたが、有権者の45%は反対票を投じており、若者は特に対中傾斜に対して慎重さを求めていることを考えると、政権は経済社会の格差是正、特に雇用対策に取り組むべきである。
更に日本との関係について、台湾が日本にとってきわめて重要な国である事を、日本は認識すべし。そして従来の局長レベルに留まっている交流を世界各国のように次官から大臣クラスの交流を図るために中国との調整を心がけねばならない。
6. おわりに
実は投票日の4日前、私は日本でのお正月を過した後、10日の深夜台南に戻りました。そして「小英革命」成就を前提に台湾通信No.58「××××」を書き始めていました。そして14日の夕方にはほぼ構想は出来上がり、後は投票結果に基づいて完成させる段取りをしておりました。ところが結果は上記の如し。すっかり意気消沈した私は、PCをオンにしたまま、自棄酒を。
中華民国が存在するか否かの議論はあろうが、台湾(島)には2300万人の人々が現実に生活し、諸外国との交易、交流を行い、国家としての機能を発揮しています。外国からの干渉や不正な妨害、手段を受けながらも、一応民主的な手続きによる選挙が行われましたので、諸外国からは馬英九候補の主張を支持するという「民意」が示されたと見なされるでしょう。馬英九氏が本当に何をしようとしているのか、彼の真意は何処にあるのか、疑問に思っている有権者は多数います。中国との交易、経済交流には賛成かもしれませんが、中国に統一されることを望んでいる人は少数でしょう。少なくとも45%の有権者は馬英九氏に反対票を投じたのです。
台湾は日本にとってきわめて重要な国であり、多くの国民が日本に対して親近感を持ち、日本ともっともっと密接な交流(国交)を望んでいます。台湾で生活していると良く分かります。台湾のあるお年寄りが仰いました、日本人はもっともっと台湾の人々の心を理解して欲しいと。