例外の人、緒方貞子さん (2002年02月03日)

 

 このところ緒方貞子さんを称える声を繁く耳にする。今月の〈文藝春秋〉の「読者が選んだ『誇るべき日本人』」なる企画では、聖徳太子、紫式部まで含む「ベスト80」の中で、緒方さんは嶄然、第4位に輝いている。

 本紙編集特別委員・久保紘之氏の筆の下では、緒方さんは「"悠揚迫らぬ"などと書くと古臭くなるかもしれないが気負うでもなく、もちろん背伸びしたりも せず、たんたんと実務的に語りながら、それでいて充実感に満ちている。話の内容というより語り手の存在自体がまずそうした「信頼・安心」感を聞く側に与え るのである」となる(夕刊1月21日「天下不穏」)。ブラウン管から伝わってくる緒方さんの人品風格についてこれほど巧みに描写するのは私にはできない。

 それにつけても思うのだが日本に緒方さんのような人物が現われるのは、これからはもっともっと難しくなるのではあるまいか。傑出した勇気、献身、 愛情など高貴な魂の持主が一つの民族にどれほど輩出するかは、その民族の歴史がどれほど豊かな伝説や伝承に彩られているかに関わっていると思うからであ る。英国では「アーサー王と聖杯の騎士たち」の大ロマンが、今日の英国人の中における優れた傳統の継承に大きく寄与していると考えられるし、建国200数 十年でしかない米国では、D.ブーンやD.クロケットのような初期の開拓者を伝説化することでフロンティア精神なるものが形成されたのである。

 ひるがえって日本は?豊かな伝承と美しい自然に恵まれていながら、その長い歴史のすべてを真っ黒に塗りたくらなければ収まらない人たちによって、 日本の若者は敬愛すべき歴史的人間規範をほとんど奪われた。いまや勇気・献身・愛情を言っても若者はせせら笑うだけで、「面白可笑しく」が彼らの最高の価 値基準となった感がある。そのうちに、彼らの理想像(アイドル)はスポーツ選手とお笑いタレントだけということにならないだろうか。

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