シンポジウム「東アジア市場統合への道筋」 (2009年11月01日)

 

 10月29日木曜日、「東アジア市場統合への道筋 -日中韓平和構築ヘのロードマップ-」と題するシンポジウム(主催・京都大学経営管理大学院)が東京都港区の政策研究大学院大学で開催され、時間ができたので聴衆として参加しました。聴きたかったのは、中曽根康弘氏の来賓挨拶と、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)の著者で、東アジアが専門のハーバード大学名誉教授、エズラ・ボーゲル氏の基調報告です。この日、ボーゲル氏は鳩山現政権を「アマチュア」だと、政権をとるために「ポピュリズムに走ってバラマキをした」とはっきり述べています。同じようなことを以前から主張しているわたしとしては、世界的に認められている研究者がこの言葉を明言したことの重みと意義は大きいと考えます。

 シンポジウムでの最大のテーマは鳩山由紀夫氏が提唱している「東アジア共同体」構想です。来賓挨拶の中曽根康弘さんは、鳩山氏の構想は言葉だけが先行していて、内容が全く不明確、はっきりとした説明が必要だ、と張りのある明瞭な口調で、言い直しや閊(つか)えるといった「言葉を噛む」ことも何らなくお話をされています。当日の朝刊で、衆議院を引退してからもずっと維持していた個人事務所を閉鎖する、とあり、御歳91となる中曽根さんが何を仰るのか、どんなご様子なのかに興味がありましたが、シャッキッとして頭脳明晰、簡潔なスピーチで、終わればすぐ退場という見事な出所進退でした。ただ、さすがに足元だけは少々お歳のようで、壇上への2,3の段差では杖をつき、御付の方が手を添えておられました。

 エズラ・ボーゲル氏は最初に二言三言日本語で挨拶しています。その立派な日本語からは日本語での講演も問題ない様子ですが、今日は通訳がつきますので、と言って英語で話し始めました。彼の英語は早口で、100%聴きとれたかどうかは分かりませんが、大切なところを次に紹介しておきます。

 ボーゲル氏が強調していたのは、アジアと欧州とは全く違うということです。これは、EU(欧州連合)をモデルにした、と考えられる「東アジア共同体」構想への批判と受けとめることもできます。欧州にはローマ文化、ローマ法といった共通の基盤があり、キリスト教での一体感もあり、大戦経験を経ての、経済的にも協力関係が重要との共通認識もある、さらに、面積や人口における国家間の差が大きくても数倍でバランスがとれていて、アジアのように途方もなく大きな国と小さな国が混在する状況ではない、と。また、東アジア諸国の協力関係強化に向けた会合や組織はすでに数多く存在し、今更というニュアンスの発言もあったような気がします。グローバル市場となったいま、東アジアといったローカルなものに限る必要もないのでは、とも述べています。もちろん最後には、いろいろなコミュニケーションや経済的な往来などを通して、お互いの距離を縮め、協力の道筋を作ることは大切だ、とまとめてはいます。

 さすがボーゲル氏、多くの示唆に富む内容です。最初に述べた、鳩山現政権に対する「アマチュア」「ポピュリズムに走った」との発言では、「ワシントンは忍耐が必要だ」としています。この他にも、これは中曽根さんも同様ですが、「東アジア共同体」構想はどの国までを含めるのか、ということも仰っておられました。また、アメリカの立場や行動についても言及しています。アメリカ人として日本の聴衆にしっかり説明したい、との意向だと思います。イラクに対するアメリカの関わり、それは必ずしも賢明なやり方ではなかったが、そういった行動パターンは9.11の影響を抜きにしては理解できない、と述べています。そして、世界の平和と安全にとって最大の脅威であるテロに対して、アメリカは苦しいなかでもお金を使うことを厭わず、尊い国民の人命をもかけている、と強調しました。これは、鳩山現政権に向けて発信されたメッセージでもあるのでしょう。

 お二人のお話を聴いて今回の参加目的はほぼ達成できました。ボーゲル氏講演の後は、氏や中国、韓国からのパネリスト、日本人有識者によるパネルディスカッションでしたが、始まる前に退席しました。会場を去る時に、台湾留学生がわたしを追ってきて挨拶してくれるという、そんな出会いもあり、お二人のお話も聴け、忙中閑ありの一日、とても有意義でした。会合などにはできることならやはり参加すべきだ、と再認識しています。

 ところでこのシンポジウム、たくさんの高校生や大学生を招待しています。座席も優先し、一番前が来賓、それに続いて高校生、次が大学生とメディア、一番後がわたしたち一般席でした。若い人に知識人の話を聴いてもらいたい、いろいろと考えてほしい、若い人が考える種をまきたいといった、とても意欲的で素晴らしい運営だったことも報告しておきます。

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