若い留学生たちのスピーチ (2009年08月05日)

 

 わたしが出演しているテレビ番組のコメンテーターよりもよっぽどいい発言でした。31日金曜日、理事長を務めるJET日本語学校のスピーチコンテストでのわたしの講評です。留学生たちのスピーチのレベルが年々高まり、昔は、日本に来てどうした、といった一般的な話が多かったのですが、最近は、思想的なもの、洞察的なものなど聴くべき内容となっています。テレビのバラエティなどで、面白おかしく、その場限りの、無責任な、笑わせればいい、といった発言に出会うことが多いなかで、若い留学生たちが、自分の言いたいことを一生懸命原稿に書き、暗記し、話す姿には、思わず引き込まれるものがあります。

090805.jpg JET日本語学校第15回スピーチコンテスト
最優秀賞の台湾の陳威志さん

 最優秀賞は台湾からの留学生、台湾で台湾語が使えない、という話でした。台湾語が二流の言葉とみなされている、それを知ったとき、台湾人としてのアイデンティティに目覚めた、という、とても心を打つスピーチでした。

 わたしが面白いと感じたのは、韓国の女子学生の、アジサイが好きだ、というスピーチです。韓国ではあまり見かけないアジサイ、彼女の自宅の裏山にもあったのですが、あまり見ない、韓国では四季折々の花というものをあまり感じることがなかったが、日本でアジサイが咲いているのをみてとても喜んだ、とのこと。日本の季節感といった繊細な感受性は韓国の学生からはいままでほとんどでてこなかっただけに、それも若い女性からでたことに、なにか嬉しい思いが残りました。

 賞をとらなかったなかにも聴くべきものがあります。カタカナが好きですか、というタイトルでの話、それは日本語の本質を衝いたものでした。日本語には、表音文字のひらがなとカタカナ、表意文字の漢字とがあって、ある意味複雑で外国人には難しい、その複雑さは日本語の豊かさでもあるのですが、そのなかのカタカナについてです。

 外国語を容易に表記できるカタカナは、海外からの新しい技術を勉強するためのツールとなっている反面、英語を知っている人にとってはかえって理解しにくいものとなり、とても難しいと留学生たちは感じています。わたしはそれを日本語だと思って勉強しなさい、と言っているのですが。外来語を安易に導入できるかわりに、日本人の英語の発音がいつまでも良くならない元凶のひとつともなっているカタカナ、ひらがなとの使い分けによって日本語の豊かさを広げているカタカナ、こういった本質を考える機会となったスピーチでした。

 日本で1年とか1年半勉強した若者たちが、よくここまで日本語で、もちろん原稿を書いて、教師が直し、練習もした結果ではありますが、高いレベルのスピーチをする姿を見ていると、わたしが出演していて言うのもなんですが、テレビ番組の発言のレベルの低さをあらためて思い、唖然としてしまいます。

 わたしのテレビ出演に関して、多くの激励のメールに混じって、「テレビなど全部やめて引っ込んでいろ」と、まあ文面では「お願いですから全てやめて引きこもってください」との意見がありました。そういう人には「Not Your Business !」と一言で済ますのですが、もうひとつ、これは善意からなのですが、「テレビに時間を費やすのはもったいない。むしろ若者に直接語りかける全国行脚にでてほしい」というのもあります。

 でも、わたしがテレビで知られているからこそ人が集まってくる、人寄せパンダとなりえるのです。テレビなしでは全国行脚も成り立ちません。政治家がテレビに出たがるのもそこにあります。票に直接結び付くのです。なにしろ、テレビの視聴率1%は100万人なのですから。それがバラエティであっても、面白おかしくやっている番組の中で、真面目な話、言わなくてはいけないことを一言いうことが大切なのです。そういったところに共感していただき、講演に足を運んでいただけ、わたしの話を直接聴いていただける、と考えています。テレビが大きな影響力をもっている、それが日本の現実なのです。

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