オペラを楽しんで (2013年09月18日)

 

 この1週間、遠方での仕事が入っていなくて幸いでした。3連休に台風18号が来襲、日本列島を縦断して、いたるところにその爪痕を残し、新幹線が止まり、飛行機は欠航しています。そんな状況をテレビで見ながら、もし講演が入っていて移動しなくてはいけなかったらどれほど大変だったか、事前にどれほどやきもきしたか、を考えていました。ひっそりと過ごした、ということでもありませんが、とりあえず遠出をしないで済んだのは、めぐり合わせとしては幸いでした。

 13日金曜日、ミラノ・スカラ座のリゴレットをNHKホールで観ました。曽野さんとの対談本「この世の偽善」の「はじめに」にも書きましたが、リゴレットは一番好きなオペラです。ヴェルディが好きで、その中でも最も好きな作品、アリアや重唱が、特に最後の四重唱は本当に素晴らしく、大好きです。見事な歌手がアリアを歌うのもいいのですが、ある程度レベルの揃ったテノール、ソプラノ、バリトン、メゾソプラノ、それにときにはバスが入って、の重唱に聴き入るのはまさに至福のときと言えます。ミラノ・スカラ座、ここだけはまだ出かけたことがありませんが、幸いにも東京公演の切符が手に入って、行ってまいりました。

 テノールが代役で最初はちょっと弱かった、でも、ジルダ役のソプラノが素晴らしく、テノールも少しづつ良くなってきて十分に楽しみました。演出も、今流行りの何か訳のわからない新しいスタイルではなく、結構重厚で、まあ高い切符ではありましたが、海外に出かけることもなく、向こうからやって来てくれたことを考えると、妥当なところでしょう。超満員だろう、と思っていましたが、ほんの少しですが空席がありました。S席のわたくしの後ろの列でも数席空いていて、都合が悪くなったのか、それなら誰かにあげたらいいのに、とてももったいない、という気がしました。

 会場となったNHKホール、はっきり言って嫌いです。わたくしが好きなのは東京文化会館、クラシック演奏のために造られ、上野駅の公園口を出るとすぐ目の前という便利さ、50年来のなじみの会館で、イタリアオペラは全てここに通って観ています。それに対してNHKホールは、音響があまり感心しない、多目的ホールで、紅白などいろいろなことをやるためのもので、クラシック演奏のためだけに造ったわけではありません。それに不便です。中途半端なところにあって、往きはタクシーで行けばいいのですが、帰りが大変、タクシーがつかまらず、最寄駅まで歩きとなります。運転手付の自家用車が最高ですが。ハイヤーを待たせていたVIPもいたようで、そんな身分になってみたいものだ、などと考えながらせっせと歩きました。

 観客のみなさんは、さすがに経団連元会長ご夫妻がおられたり、大阪から来ました、「たかじん」見てます、って挨拶されたり、高松でのわたくしの講演を主催したソロプチミストのメンバーであるご婦人とそのご主人にお会いしたり、熊本から来ました、福岡から来ました、と全国からおいでになっています。大阪の方から、大阪ではオペラをやらないコンサート形式、失礼だよ、と言われて返事に困りました。わたくしに言われても。結局その方は13日と14日の2枚の切符を買って大阪からやって来たという、そんな熱心な人がたくさんいるようです。

 50年来のオペラ通いで、昔、上野の文化会館でよく出会う、しょっちゅう決まった顔ぶれがいましたが、いま見渡してみて誰一人として見かけません。みなさん現役からお引き取りになったのでしょうか。寂しいかぎりです。こうして元気にオペラに出かけられる、というだけでも幸せです。出会うのは新しい人、ここ数年でオペラ好きとなった人でしょうか、何かオペラが流行っているとのことですから。早稲田の大学院時代の友人に会いましたが、オペラ会場で顔を合わせるのは初めてです。

 3連休、台風で荒れるなか、家でDVDを楽しみました。「キリマンジェロの雪」と、翌日には全く違う「雨に唄えば」というミュージカルを。「キリマンジェロの雪」、懐かしかった。グレゴリー・ペックのハンサムなこと、エヴァ・ガードナーの美しいこと、スーザン・ヘイワードもいましたが、やっぱりガードナーの妖艶な美しさにはかなわない、永遠に誰もかなわないのではないでしょうか。わたくしが若い頃、女優の美しさで必ずトップでした。その素晴らしい、最盛期の美しい姿、懐かしかった、それに、ヘミングウェイも。映画を見ることで、かつて英米文学で時間を費やしていたころを思い出しました。

 「雨に唄えば」はどうということはないミュージカルで、内容はほとんど記憶していませんでしたが、ジーン・ケリーが雨の中で歌ったり踊ったりするシーンだけははっきりと覚えています。映画を見てひとつ発見しました。ピンクレディの振り付けで、足を広げる踊りがあって、下品だとかいう反対論のあるなかでも大ヒットとなりました。同じ踊りを映画の中でコーラスの人たちがやってました。つまりアメリカ・ミュージカルの二番煎じなんです。いろいろ見て、勉強して、ときには真似をするのも、悪いとは言いません。でも、そこから学んだということだけは一言あるべきではないでしょうか。ヘミングウェイを見ようが、ミュージカルを見ようが、いろいろと思うことがある、これもわたくしの性分なのでしょう。

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