台湾人の親日感情は揺るがない (2013年01月18日) |
わたくしの秘書だった早川友久さんが、隔月刊「アイデンティティ」(新聞「アイデンティティ」発行2013年12月1号)に寄稿したものです。
台湾人の親日感情は揺るがない
在台中国人の反日行動を台湾の民意だと誤解してはならない
日本李登輝友の会台北事務所長 早川 友久
台湾在住の邦人に動揺ない
今年4月、東京都の石原慎太郎知事が、都による尖閣諸島購入計画を滞在先の米国で表明すると、その発言は台湾でも大々的に報じられた。その後、遅まきながら政府も国有化を目指す方針が伝えられると、台湾のメディアはこぞってキャンペーンをはり、「釣魚台(尖閣諸島の中国語名)は中華民国の領土」という国民党政府の主張を垂れ流し続けた。
台湾でも、日本大使館にあたる交流協会台北事務所前で抗議デモが行われたが、中国の大規模かつ暴力的な「焼き討ち」と比べれば、多くても数百人が集まって抗議書を手渡すという実にささやかなものであった。
台湾に暮らす日本人社会も大きな動揺はなく、子供たちが通う日本人学校に関しては警備が強化されたものの、「台北の歌舞伎町」と呼ばれる繁華街から日本人の姿が減ることはなかった。
しかし、9月に入り、漁船団が領海侵犯して尖閣諸島に接近した頃から、台湾国内の動向が日本で報じられるに連れ、多少風向きが変わってきたように思う。すなわち、台湾国内でも尖閣デモが行われたり、抗議船が出港するなどの報道をとらえて「台湾も危ないのではないか」と判断し、旅行を取りやめにするケースを耳にし始めたからだ。
台北にある日系ホテルのオーナーによれば、現在客室は連日満室で、通常よりも稼働率が高いほどだという。これは、もともと中国大陸や韓国へ旅行を計画していた人々が、かの地は危険だということで、旅行先を台湾に変更したケースが非常に多いからだそうだ。ただ、同時にもともと台湾旅行を計画していた人々によるキャンセルも相当数あり、台湾へのシフトによる旅客増加とキャンセルが拮抗、もしくは台湾シフト組が少し上まっているというのが現状のようだ。
11月初旬の訪台を予定していた某商工会議所も、当初は「50名で参加」という連絡を受けていたが、最終的な参加予定人数は30名を切った。理由を聞くと「台湾は危ない」という報道によってキャンセルが相次いだからだという。
10月10日の中華民国国慶節を前に、台北市内のメインスポットには「尖閣はわが領土」なる大ポスターが貼りだされ、日本人観光客が訪れる総統府などの入口には、ご丁寧にも日本語版の「尖閣問題啓蒙パンフレット」が置かれるという無礼な状態も目の当たりにした。
中華民国政府と民衆の乖離
しかし、その大ポスターの下を歩く我々日本人に対し、台湾人は底なしに優しい。なかにはわざわざ「あれは『中華民国』政府が言っているだけだ。台湾人の考え方とは全く違う」と電話してくる友人もいるほどだ。10月半ばに参観のため、全館開放された日本時代の「台湾総督官邸(現台北賓館)」では、尖閣問題パンフレットが置かれていたが、ボランティアのおじさんたちは「これは持っていく必要ないよ。政府が勝手にやってるだけ」と、ますます政府と台湾の人々の間の乖離を感じさせる。
反日運動は、在台中国人の仕業だ
今般の尖閣問題の出来によって「台湾は親日だったはずなのに」という意見も散見された。しかし、どうか単純な視点で台湾を見て、一部だけを切り取って判断しないで欲しい。台湾には、戦後、中国大陸から敗走してきた国民党とともに台湾へ逃げ込んできた200万とも300万ともいわれる中国人とその末裔がいる。彼らのすべてがそうだとは言わないが、彼らにとって日本は敵であり、今も怨嗟の対象であり続けている。戦後、台湾を牛耳った国民党の中国人たちはメディアを独占し、反日教育を施して台湾人の耳を塞ぎ、口を縛った。
現在、台湾で反日デモを行い、尖閣諸島の領有を主張し、尖閣周辺での操業を許可して欲しいだけの漁民たちをけしかけ、出航させているのは、こうした「在台中国人」と、彼らの金に動かされた人々なのである。
報道の一片だけを切り取って「台湾は危険だ」と判断することなく、尖閣領有の主張だけを取り上げて「台湾は親日のはずだったのに」と誤解することのないようにお願いしたい。台湾はこの広い国際社会のなかでも、とりわけ複雑な社会構造を有している。
戦後、国民党の40年近くにわたる戒厳令、凄惨を極めた残虐な白色テロ、徹底した反日教育によっても、台湾の人々の親日感は揺るがなかった。その要因のひとつが、日本時代を経験した「日本語族」と呼ばれる、老人世代の存在である。彼らは現在どんなに若くてもすでに80歳前後。いつかは神話になる世代であり存在である。日本語族はだんだん減少しているが、若い世代に目を転じても日本が「最も台湾に友好的な国」として認識されていることは、世論調査の数字が証明している。
台湾は間違いなく世界一の親日国である。それほど容易に台湾の親日感が変わるものか。東日本大震災で、わが事のように日本に想いを寄せ、世界一の義援金と支援物資を贈り届けてくれた国はどこであったか、今一度思い出すがよい。